ジャガイモとトマトの毒性について

 ナス科の植物(ジャガイモ、トマト、ピーマン、ナス、トウガラシなど)にはグリコアルカロイド といわれる物質が含まれますが、中毒を起こすほど含れているのはジャガイモの芽や青くなった皮 (明るいところに置いたジャガイモ)、トマトの葉や未熟果です。毒性があることについては拙著に おいても簡単に触れていますが、この度ジャガイモの皮を食べて中毒になった可能性のあるブタ友 のブタが現れましたので、これらの中毒物質についてインターネットで調べ、まとめて見ました。 ◎中毒の原因物質  ジャガイモやトマトに含まれている毒性物質はグリコアルカロイドと総称される物質で、細かく はソラニン(α、β、γ型)、ソラニジン、チャコニン、ソラマリン、コマソニン、レプチン、デミ ツシン(以上ジャガイモ)、トマチン(トマト)などです。 ◎中毒作用と中毒量  グリコアロカロイドは溶血作用、アセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを阻害、運動中 枢神経の麻痺作用、消化管麻痺作用を持ちます。ソラニンは神経毒の一種で、細胞間の情報伝達物 質であるアセチルコリンが機能した後、アセチルコリンエストラーゼという酵素で分解されますが、 ソラニンはこの酵素の働きを阻害するためアセチルコリンが蓄積され興奮状態が続いてしまい正常 な神経機能が破壊されるもので、サリンとよく似た働きをします。  人の場合、摂取後7〜19時間後に下痢・嘔吐・食欲減退・意識障害・錯乱・痙攣・悪寒・めまい ・腹痛・頭痛・極度の疲労感などの症状を引き起こします。軽症の場合は一過性ですが重症の場合 は1週間程度症状が継続します。ただし、20時間経って症状が出た例や症状が出るのに48時間掛か り、死亡した例もあります。  動物実験では消化管からの吸収は少なく、便中に速やかに排泄します。尿中にもごく少量が検出 されます。  グリコアルカロイドは苦味があり(生イモで20mg/kg以上になると苦くなる。多くのアルカロイド に共通の性質)、通常では大量に摂取することがないため、国内では人の死亡例はありません。 ○ソラニンの致死量は   成人で中毒症状が現れる量:0.2gと言われていますが、これより少ない量でも発症の例があり                ます。                子供ではこの1/10の量で喫食者の半数が発症した例があります。   成人の致死量      :3〜5mg/kg   ラットでの経口半数致死量:590mg/kg   ウサギでの経口半数致死量:490mg/kg        静脈注射半数致死量:25mg/kg ○トマチンの致死量は   マウスでの経口半数致死量:500mg/kg ○器官毎の症状   中枢神経:極度の疲労感、傾眠、錯乱、昏睡、脳圧亢進、瞳孔収縮、幻覚   呼吸器 :呼吸困難、呼吸停止   循環器 :頻脈、顔面蒼白、血圧低下   消化器 :食欲不振、嘔吐、腹痛、下痢、時に出血性胃腸炎、流涎(重症時)   その他 :重症時、高血糖、腎不全、発熱・発汗 ◎治療法(人の場合)  ○起立性低血圧・神経症状があれば24時間以上入院観察。  ○摂取後4時間以内で嘔吐や下痢がなければ胃洗浄、吸着剤と下剤の投与。  ○拮抗剤や解毒剤はない。 ◎所 在、量、性質  ○ジャガイモの芽、皮、未熟なもの・光に当たって内部が緑化・褐色化したもの(通常、   戸外で3〜7日で緑化が起きます)の可食部。トマトでは葉、未熟果。  ○品種としてはメイクイーンは男爵や出島に比べてやや多く含まれる傾向があります。  ○ジャガイモでは 平常時・・・ソラニン:0.04〜0.12g/kg 発芽時・・・ソラニン:1g/kg以上   平常時、85〜96%が周辺部分あるといわれています。  ○適切に保管された古ジャガと新ジャガとの差はほとんどない。  ○産地による差はほとんどない。  ○ソラニンは水溶性であり、熱に対しては比較的安定。従って、蒸すよりも茹でる方が   良い。  ○身近なジャガイモ中のグリコアルカロイド量     生のイモ:20mg/kg以下     チップス:0.5mg/kg     マッシュポテト製品:2〜4mg/kg     脱水ポテト:約1mg/kg     (肉:1.5〜5mg/kg)   イモの大きさとグリコアルカロイド量の関係(小学校での栽培例)
ジャガイモの品種濃度等ジャガイモ1個の重さ
30g以下30〜100g100g以上
メークイン濃度(ppm)57〜18841〜12925〜57
平均濃度(ppm)968144
検体数
ニシユタカ濃度(ppm)28〜1278〜398〜29
平均濃度(ppm)512016
検体数(ppm)10
部位とグリコアルカロイドの含有量(市販品)
ジャガイモの品種濃度(ppm)100gのイモの含有量(mg)
外皮内皮全体外皮内皮全体
出島42052180.610.680.611.9
メークイン7071279401.31.80.733.9
男爵495435210.760.620.421.8
※外皮:外側の薄い皮、内皮:内側の1〜2mmの皮、身:皮を除いた部分 ◎中毒例
中毒年月場所食者数発症者数ジャガイモの状況グリコアルカロイド量
1998年6月福岡県の小学校28名19名学校栽培のジャガイモ0.5〜10mg(生イモ1個あたり)
1999年7月福岡県の小学校30名20名学校栽培のジャガイモ1.8〜4.7mg/100g(可食部)
2000年7月神奈川県の小学校93名65名学校栽培のジャガイモ
2000年7月広島県小学校35名26名学校栽培のジャガイモ33〜49mg/100g(可食部)
2001年6月広島県の幼稚園82名33名幼稚園栽培のジャガイモ25.5〜87.1mg/100g(可食部)
2003年7月東京都の小学校32名6名学校栽培のジャガイモ3.5mg/100g(イモ)
 ○上の表の1998年の場合、グリコアルカロイドの濃度は100〜600ppm、発症者の平均喫食量は約100g、  中毒発症量は16.5mgと推定されました。  ○78人の集団中毒では17人が胃腸症状がなく、発熱・傾眠・錯乱・興奮・頭痛・幻覚があり、その   内3人は低血圧・頻脈・体液電解質アンバランスにより昏睡状態になり、6〜11日間入院加療、   数週間視覚のぶれが残ったとの例があります。  ○ロンドンの小学校で夏休み中放置してあったジャガイモを給食に使用したところ、摂取6時間後、   78人が倒れ、17人が入院、その内3人が重症で4日後にやっと回復の兆しが見えた。  ○グラスゴーで1918年61人が頭痛、嘔吐、下痢に見舞われ、5歳の少年はひどい嘔吐の後、腹部の   血行が止まり死亡。  ○朝鮮戦争当時の北朝鮮で、腐ったジャガイモを食べた住民に中毒が起こり、ある地区では382人   が倒れ、52人が入院、その内22人はほぼ即死、重症の人も1日以内に心不全で死亡。中には5〜   10日間苦しんだ末、激しい興奮状態になり死亡した人もいたそうです。 ◎防止策   以上のまとめを読むとちょっと怖くなってジャガイモを食べられなくなる方がいるかもしれませ  んが、適切に扱われている店で販売されているジャガイモについて下記の通りの食べ方をすれば問  題はありません。これからもジャガイモ料理を楽しみましょう!  ○ジャガイモは芽だけでなく、皮も除去して調理すること。皮をむけばグリコアルカロイドの量は   1/3程度まで減らすことが出来る。  ○未熟なものは皮部と同じ割合でグリコアルカロイドを含むので食べないこと。  ○苦味(えぐ味)が少しでもあるものは食べないこと。  ○ジャガイモは冷暗所に貯蔵すること。  ○出来るだけ買い置きしないこと。古いジャガイモが出てきてももったいがらずに捨てること。まし   て、ブタに食べさせないこと。  ○緑化した部分は完全に除去するか、緑化・褐色化したものは避けることが賢明。  ○小学校などで実験栽培するとき、ジャガイモの栽培に当たっては熟知したものの指導を受けること。  ○ジャガイモの葉をウサギに食べさせたところ死亡した例があることから、ブタにも食べさせないこ   と。ニシユタカ種の葉の中のグリコアルカロイドの量の調査例によれば約340ppmであり、この量で   は人の場合でも50gで中毒量に達します。  ○トマトの葉や未熟化を人が食べることはほとんどありそうもないことですが、ブタに食べさせるこ   とはありそうに思えますので気をつけましょう。 [註]  ○このレポートに出てくる数値に若干の相違がある場合はサンプルのとり方、根拠となる事例による   差によるものです。 [KOBAちゃんの疑問]  ○敗戦前後の食糧難の頃、多くの家庭で畑を作りジャガイモを植えました。収穫の時もったいないで   すから小さなイモもすべて収穫し食べました。しかし、中毒はしなかったしそういう話もきいたこ   とがありません。  ○我が家では母は新ジャガが出ると包丁で外皮(外側の薄い皮)を擦るようにして剥いて調理していま   した(内皮を食べていました)。でも、中毒したことはありません。  ○新ジャガの出る頃、小芋の外皮だけを剥いて、煮っ転がしにしたものは大変美味しいです。でも中   毒したことはありません。   以上の中毒しそうな状況でも中毒しなかったのはなぜでしょう?    単なる偶然?    食べる量が中毒発症量に比べて少なかった?      どなたかお答えいただけると嬉しいのですが・・・。