ミニブタフードと家畜ブタの飼料の比較
ミニブタに与える飼料の適・不適についてはこのホームページの「レポートL ミニブタの食べ物について」、「レポ
ートM ミニブタの餌の成分について」及び拙著「ミニブタの医・食・住 第四章 食べ物について」で触れている通り
ですので、ドッグフードが不適である点についてはその部分を読み返していただくとして、ここでは家畜ブタの飼料が子
豚用、肥育豚用であれ、繁殖ブタ用であれ不適である点について、数値をあげて検討してみたいと思います。
なお、ミニブタフードの成分についてはインターネット上でメーカー又は取扱店により公表されたものであり、家畜豚
飼料の成分等については「農林水産省農林水産技術会議事務局編『日本飼養標準』(1998年版)中央畜産会発行」によりま
した。
[表T]・・・主な栄養成分、カロリー、家畜豚への給餌量を示しています。
[表U][表V][表W]・・・それぞれ[ミネラル][ビタミン][アミノ酸]についての数値であり、子豚、肥育豚、繁殖育成
豚は[表T]の体重の豚を表しています。
(表―T)
栄養成分(g/100g) | ミニブタフードA | ミニブタフードB | 家畜豚の飼料 | 子豚(5〜10kg)用 | 肥育豚(30〜70kg)用 | 繁殖育成豚(80〜100kg)用 |
---|
粗タンパク質 | 16.2 | 15.7 | 粗タンパク質(%) | 22.0 | 15.0 | 13.0 |
粗脂肪 | 3.2 | 5.5 | | | | |
粗繊維 | 5.0 | 8.7 | 給飼量(g)(中間体重に対して) | 380 | 2,160 | 2,290 |
粗灰分 | 6.3 | 12.8 | 体重に対する比率 | 5.1% | 4.3% | 2.5% |
可溶性無窒素分 | 54.9 | 51.3 |
カロリー(Kcal/100g) | 313 | 318 | カロリー(Kcal/100g) | 370 | 330 | 308 |
[表T]で注目していただきたいのは「給餌量」です。家畜豚ではそれぞれの豚に応じて調整された飼料を豚の体重に
対して一定の割合で与えます。即ち子豚は体重の5.1%、肥育豚は4.3%、繁殖育成豚は2.5%です。これをミニブタに当て
はめると4kg(2ヶ月齢程度)の子ブタでは200g、17kg(6ヶ月齢程度)、35kg(12ヶ月齢)の成長期のブタではそれぞれ430g、
875gの餌を与えなくてはなりません。実際に実験動物として飼育されているミニブタは2ヶ月齢で200g、6ケ月齢で400g、
12ヶ月齢で700g〜1000gのミニブタフードが与えられています(詳しくは最後のグラフをご覧ください)。
しかし、ペットのミニブタでは大人のブタでさえ、精々2カップ(400cc、350g)程度しか与えられていません。これから
分かることはペットのミニブタは繁殖育成ブタ飼料で比べるとカロリーはほぼ同じなので、カロリー上で見れば、野菜な
どの副食物が与えられるとしても、元々かなりの制限食であることが分かります。従って、給餌量はそのブタの成長度(肥
満度)を見てかなり慎重に決めなくてはなりません。かなりの割合のペットのミニブタが痩せ気味であることに注目してい
ただきたいと思います。個人的な考えを言わせていただければ、大人になるまで(少なくとも2歳齢まで)はブタは少し太
り気味のほうが良いと思います。その時期の痩せ過ぎは多少の肥り気味よりも健康に与える障害は大きいと考えられます。
(表―U)
ミネラル(g/100g) | A | B | 子豚用 | 肥育豚用 | 繁殖育成豚用 |
---|
Ca | 0.75 | 2.24 | 0.80 | 0.55 | 0.75 |
P | 0.70 | 1.85 | 0.45 | 0.25 | 0.45 |
Mg | 0.25 | 0.23 | 0.04 | 0.04 | 0.04 |
K | 0.89 | 2.25 | 0.28 | 0.20 | 0.20 |
Mn(mg) | 8.45 | 5.45 | 0.40 | 0.20 | 1.0 |
Fe(mg) | 20.0 | 28.8 | 10.0 | 5.0 | 8.0 |
Cu(mg) | 1.22 | 0.90 | 0.60 | 0.35 | 0.50 |
Zn(mg) | 5.51 | 15.45 | 10.0 | 5.5 | 5.0 |
Na | 0.16 | 0.41 | 0.10 | 0.10 | 0.15 |
Se(mg) | 0.013 | ― | 0.030 | 0.015 | 0.015 |
Cl | 0.26 | 0.69 | 0.08 | 0.08 | 0.12 |
I(mg) | 0.071 | ― | 0.014 | 0.014 | 0.014 |
(表―V)
ビタミン(mg/100g) | A | B | 子豚用 | 肥育豚用 | 繁殖育成豚用 |
A(IU) | 1601 | 1385 | 220 | 130 | 400 |
B1 | 4.49 | 3.84 | 0.1 | 0.1 | 0.1 |
B2 | 2.13 | 2.77 | 0.35 | 0.23 | 0.38 |
B6 | 2.35 | 1.07 | 0.15 | 0.1 | 0.1 |
B12 | 0.0028 | 0.0125 | 0.0175 | 0.0075 | 0.015 |
D(IU) | 240 | 245 | 22 | 15 | 20 |
E | 22.6 | 18.2 | 1.6IU | 1.1IU | 2.2IU |
K | 2.86 | 0.14 | 0.05 | 0.05 | 0.05 |
パンテトン酸 | 4.98 | 5.09 | 1.0 | 0.75 | 1.20 |
ナイアシン | 11.66 | 10.35 | 1.5 | 0.85 | 1.0 |
葉酸 | 0.60 | 0.22 | 0.03 | 0.03 | 0.03 |
コリン | 237 | 300 | 50 | 30 | 125 |
ビオチン | 0.10 | 0.026 | 0.005 | 0.005 | 0.020 |
(表―W)
アミノ酸(g/100g) | A | B | 子豚用 | 肥育豚用 | 繁殖育成豚用 |
イソロイシン | 0.59 | 0.52 | 0.82 | 0.45 | 0.33 |
ロイシン | 1.61 | 1.03 | 1.34 | 0.75 | 0.60 |
リジン | 0.67 | 0.71 | 1.34 | 0.75 | 0.60 |
メチオニン | 0.35 | 0.27 | 0.82 | 0.46 | 0.30 |
シスチン | 0.29 | 0.20 | | | |
フェニルアラニン | 0.81 | 0.59 | 1.26 | 0.72 | 0.58 |
チロシン | | 0.39 | | | |
スレオニン | 0.57 | 0.55 | 0.87 | 0.49 | 0.36 |
トリプトファン | 0.16 | 0.16 | 0.26 | 0.14 | 0.09 |
バリン | 0.71 | 0.71 | 0.92 | 0.51 | 0.42 |
アルギニン | 0.87 | 0.75 | 0.45 | 0.25 | ― |
ヒスチジン | 0.40 | 0.38 | 0.42 | 0.24 | 0.20 |
家畜豚用飼料をミニブタフードと同量与えるとどうなるか
上の表では表を見慣れていない方にとっては取っ付きにくいものだと思いますので、具体的な数値
で表したものが下の表です。この表はそれぞれに処方された餌350g(約400cc、2カップ)をミニブタに
を与えた時の各成分物質の供給量を表しています。この表の中で黄色は体重30kgの繁殖育成ブタ
が必要とする養分要求量に対して1/2量しか含まれていないことを表し、紫は1/3、赤は1/5である
ことを示しています。なお、「日本飼養標準」には30kgの繁殖育成豚の値がないため、70kgの値か
ら比例計算により30kgの豚の養分要求量を算出しました。
栄養成分等 | ミニブタフードA | ミニブタフードB | 養分要求量(30kgの繁殖育成豚) | 家畜豚飼料・子豚用 | 家畜豚飼料・肥育豚用 | 家畜豚飼料・繁殖育成豚用 |
粗タンパク質 | 56.7 | 55.0 | 121 | 33.0 | 52.5 | 44.5 |
カロリー(kcal) | 1095 | 1113 | 2869 | 1295 | 1155 | 1078 |
Ca(g) | 2.63 | 7.84 | 6.97 | 2.80 | 1.93 | 2.63 |
P(g) | 2.45 | 6.48 | 4.21 | 1.58 | 0.88 | 1.58 |
Mg(g) | 0.88 | 0.81 | 0.38 | 0.14 | 0.14 | 0.14 |
K(g) | 3.12 | 7.88 | 1.87 | 0.98 | 0.70 | 0.70 |
Mn(mg) | 29.6 | 19.1 | 9.31 | 0.71 | 0.70 | 3.5 |
Fe(mg) | 70.1 | 101 | 74.4 | 35.0 | 17.5 | 28.0 |
Cu(mg) | 4.27 | 3.15 | 4.68 | 2.10 | 1.23 | 1.75 |
Zn(mg) | 19.3 | 54.1 | 46.8 | 35.0 | 19.3 | 17.5 |
Na(g) | 0.56 | 1.44 | 1.40 | 0.35 | 0.35 | 0.53 |
Se(mg) | 0.046 | | 0.140 | 0.105 | 0.053 | 0.053 |
Cl(g) | 0.26 | 0.69 | 1.11 | 0.08 | 0.08 | 0.12 |
I(mg) | 0.249 | | 0.132 | 0.049 | 0.049 | 0.049 |
A(IU) | 5604 | 4848 | 3723 | 770 | 455 | 1400 |
B1(mg) | 15.7 | 13.4 | 0.93 | 0.35 | 0.35 | 0.35 |
B2(mg) | 7.46 | 9.70 | 3.49 | 1.23 | 0.81 | 1.33 |
B6(mg) | 8.23 | 3.75 | 0.93 | 0.53 | 0.10 | 0.35 |
B12(mg) | 0.0098 | 0.0438 | 0.013 | 0.0613 | 0.0263 | 0.0525 |
D(IU) | 841 | 858 | 187 | 77 | 53 | 70 |
E(mg) | 79.0 | 63.7 | 20.5IU | 5.6IU | 3.9IU | 7.7IU |
K(mg) | 1.00 | 0.49 | 0.47 | 0.18 | 0.18 | 0.18 |
---|
パンテトン酸(mg) | 17.43 | 17.82 | 11.18 | 3.50 | 2.63 | 4.20 |
ナイアシン(mg) | 40.81 | 36.23 | 9.31 | 5.25 | 2.98 | 3.50 |
葉酸(mg) | 2.10 | 0.77 | 0.28 | 0.11 | 0.11 | 0.11 |
コリン(mg) | 830 | 1050 | 1165 | 175 | 105 | 438 |
ビオチン(mg) | 0.35 | 0.091 | 0.18 | 0.018 | 0.018 | 0.070 |
イソロイシン(g) | 2.07 | 1.82 | 2.93 | 2.87 | 1.58 | 1.16 |
ロイシン(g) | 5.64 | 3.61 | 5.36 | 4.56 | 2.63 | 2.10 |
リジン(g) | 2.35 | 2.49 | 5.36 | 4.69 | 2.63 | 2.10 |
メチオニン(g) | 1.23 | 0.95 | 2.68 | 2.87 | 1.61 | 1.05 |
シスチン(g) | 1.02 | 0.70 | | | | |
フェニルアラニン(g) | 2.84 | 2.07 | 5.14 | 4.41 | 2.52 | 2.03 |
チロシン(g) | | 1.37 | | | | |
スレオニン(g) | 2.00 | 1.93 | 3.23 | 3.05 | 1.72 | 1.26 |
トリプトファン(g) | 0.56 | 0.56 | 0.81 | 0.91 | 0.49 | 0.32 |
バリン(g) | 2.49 | 2.49 | 3.74 | 3.22 | 1.79 | 1.47 |
アルギニン(g) | 3.05 | 2.63 | ― | 1.58 | 0.88 | ― |
ヒスチジン(g) | 1.40 | 1.33 | 1.79 | 1.47 | 0.84 | 0.70 |
上の表についての考察
◎ 家畜豚の飼料をミニブタに与えることについて、予てから述べていること――家畜豚の飼料は多量
に給餌される豚のために処方されているので、少量しか給餌されないペットのミニブタでは、特に
微量成分が不足する――が証明されていると思います。
即ち、家畜豚ではミニブタに比べてかなり多量の餌を与えます。例えば30kgの子豚に対しては
「子豚用」では体重の5.3%(1590g)、肥育豚では「肥育豚用」を4.3%(1290g)、繁殖育成豚では4%
前後(1200g前後)となります。従って、これらの餌はそれだけの量を摂取して丁度よく栄養要求量を
満たすように作られているので、その1/4程度しか与えないならば、当然養分の不足を生じます。
表の数値を見ると黄色(養分要求量の1/2)、紫色(1/3)は適切な量を与えられている家畜豚にと
っては不足するわけではなく、赤色(1/5)も問題がないと思われます。
繰り返しますが、家畜豚の飼料はそれ相当の給餌量に見合ったように作られているので、例え「繁
殖育成豚用」であっても、給餌量の少ないペットのミニブタでは栄養不足を生じます。特に成長期
の子ブタでは影響が大きいと思われますので、家畜豚の飼料を与えることは適切ではありません。
まして、ドッグフードは更に成分が異なりますので「一部のペットショップ等で言われている“ド
ッグフードで飼えますよ!”」は大間違いと言わざるを得ません。
◎ ミニブタフードA、Bについて考察してみます。ミニブタフードの調製は「日本飼養標準」の「繁
殖育成豚の養分要求量」を基準とし、欧米のメーカー等の製品を参考にし、家畜豚に比べて給餌量
が少ないこと(1日当たり700〜1000g程度)を考慮して調製されていると思われます。その結
果「日本飼養標準の養分要求量」に比較して微量成分(ミネラル、ビタミン、アミノ酸)を多少多め
に調製されている様子が表の数値より伺われます。
1日量を350gとした場合、ミニブタフードBではタンパク質、カロリー以外は「養分要求量」を
満たしております。従って、子ブタに与える場合はタンパク質の不足を補うために「脱脂粉乳」等
で補足した方がよいと思われます。子ブタ、大人ブタにかかわらず、ペットのブタの場合ミニブタ
フードの他に野菜や果物等を与えるため、カロリー不足は調整されることが推測されます。また、
犬用のガム(牛皮か牛皮から抽出されたゼラチンorコラーゲン)は歯磨きの効果も若干期待されるだ
けでなく、タンパク質やカロリー不足にも効果があると思われます(やりすぎには注意しましょう)。
ミニブタフードBではAで考えられること以外にミネラル類に不足が見られます。これは先にも触
れた通り、ミニブタフードは700〜1000g与えると言うことを前提で調整されているためと考えられ
ます。この量の給餌では不足はないものと思われますが、350g以下しか与えない場合は多少の影響
があるかもしれません。
ミニブタフードの給餌量の例
最初のところで記述しましたが、実験動物としてのミニブタは「給餌量を制限して小さく育てよう」等
と言う不自然な飼育をしたものは健康に問題があり実験に使用できませんので、遺伝的にあるべき姿に
飼育します。その際に与える餌の量は必要にして充分な量でなくてはなりません。下のグラフはこのよ
うな状況下でのゲッティンゲンの月齢・体重とミニブタフードの給餌量の関係を表した一つの例です。
月齢(又は体重)と給餌量の関係は個々のデータによりかなりの相違が見られます。この表は「レポートF
ゲッティンゲンについて」に準じていますが多少異なっています。
ペットのミニブタの飼育においてもこのようなデータを参考にして考えられるべきであろうと思います。